第9回研究大会報告要旨

 
第一報告 青谷秀紀氏(明治大学) 
「『​堤防の贖宥』(1515 年)とその周辺 ―ハプスブルク家の宗教政策とフランドルの都市社会― 」

 15 世紀にブルゴーニュ公国を構成したネーデルラント諸邦の⼤半は神聖ローマ帝国に属するのに対し、フランドル伯領はフランス王国の⼀部であった。それらネーデルラント諸地域を継承したハプスブルク家は、独⾃の司法機関を設置するなどして伯領から王権の影響 ⼒を排除しようと試みた公家の努⼒をも引き継ぐこととなる。その結果、1529 年のカンブレ条約により、ついにフランドルはフランス王権の⼿を離れハプスブルク家の宗主権下に組み込まれた。ネーデルラント⽀配の順調な進展を思わせる流れだが、1515 年に若き⽇のカール 5 世がフランドル伯に即位した時点では、政治から⾃然環境に⾄るまで種々の危機が伯領を⾒舞っており、決して上記のような展開を楽観的に⾒通しうるものではなかった。本報告では、『堤防の贖宥』の布告をはじめ、国家形成の⽂脈では従来注⽬されることの少ないこの時期の宗教政策を中⼼に、カールとその周辺がどのようにこれらの危機に対処し、伯領⽀配を確たるものにしようとしたのかを検証したい。また、そうした政策にフランドルの都市社会がどのように反応したのかも、併せて検討したい。

 

第二報告 芹生尚子氏(東京外国語大学)   
「啓蒙の世紀における軍隊の影で-平和と改革の時代にフランス軍を脱走した兵士たちの記録が問いかけるもの-」
   
本報告は、アンシアン・レジーム末期、平時において脱走した兵士の尋問記録を手掛かりに七年戦争後の改革期の軍隊がどのような場であったかその一端を明らかにする。
七年戦争の敗北を受けてフランスで展開した軍隊の改革の動向について、それを支えた将校の意見や思想は明らかにされているものの、軍隊の底辺を構成する兵士について私たちの知るところは決して多くない。改革を主導する陸軍卿と将校の間では、兵士について多くのことが議論され、そこでは新たな兵士像、新たなアプローチが提示されることになるが、一連の改革の焦点となった兵士の経験や観点はどのようなものであっただろうか。こういった問いに答えるために、本報告では、脱走兵によって表明された言葉や感情を分析の中心に据え、改革期に創造された軍隊の日常生活のなかで彼らが何を発見し、また、そこにどのような驚きや困難があったのかを考察する。そうすることによって、近年フランスにおける歴史研究のなかで注目されることの少なくなった民衆の歴史的な経験について多少なりとも理解を新たにするとともに、また、身分社会の枠組みが変容しつつあった時代に彼ら多数者を軍隊のなかで直接統治しようとする技術が試されていく様に光をあてる。

 

第三報告 難波ちづる氏(慶応義塾大学)  
「植民地支配と森林―仏領インドシナにおける森林統治と利用―」
   
14世紀以降フランスで、紆余曲折を経て整備されていった森林管理制度は、19世紀前半に、森林官養成学校の創設、森林法の制定、森林局の整備によって、ある程度の完成をみた。こうしたフランスの森林制度は、植民地においても導入され、各地で森林開発と保全が、住民の用益権の制限をともなって展開されていった。植民地支配という本質的に不安定な体制において、経済、軍事、環境、文化と多様な分野において重要な役割をもつ森林が、どのように管理・利用され、様々な主体はどのように森林とかかわっていたのか。本報告では、本国から最も遠い植民地であるインドシナを対象とし、この地で、どのようにフランス林学に基づいた森林開発と管理が行われ、そこに企業はどのようにかかわり、近隣住民はそれらに対しいかに反応し、森林の利用を行ったのかを明らかにし、森林が植民地支配にとってどのような意味をもち、また、植民地支配が森林の在り方をどう変容させたのかを考える。

 

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